『ファイアーエムブレム』というシリーズ名は、ゲームを知らない人でも一度は聞いたことがあるかもしれません。
しかし、実際にシリーズを遊んでいると一つの疑問が出てきます。
そもそも「ファイアーエムブレム」とは何なのでしょうか?
『ゼルダの伝説』ならゼルダという人物がいます。
『ドラゴンクエスト』なら、ドラゴンや冒険というイメージがあります。
ところが『ファイアーエムブレム』の場合、
「これがファイアーエムブレムです」
と全作品共通で登場するアイテムがあるわけではありません。
ある作品では盾。
ある作品では石。
ある作品ではメダリオン。
ある作品では家紋。
ある作品では人間の体内に宿る特殊能力。
そしてついには、主人公自身がファイアーエムブレムになる作品まであります。
任天堂公式も、シリーズの物語を「竜」と「剣」と「炎の紋章」の物語と説明しています。
今回は、歴代作品で「ファイアーエムブレム」が何を指しているのかを整理しながら、その役割を分類してみます。
※本記事では家庭用の本編作品を中心に扱い、リメイク作品は基本的に原作とまとめています。
まず結論:ファイアーエムブレムは作品ごとに別物
歴代作品をざっくり並べると、こうなります。
| 作品 | ファイアーエムブレム | 分類 |
|---|---|---|
| 暗黒竜と光の剣/紋章の謎 | 紋章の盾・封印の盾 | 神器・封印装置型 |
| 外伝/Echoes | 明確なものは登場しない | なし |
| 聖戦の系譜 | ヴェルトマー家の炎の紋章 | 家紋・象徴型 |
| トラキア776 | 独自のものは登場しない | 聖戦と世界観を共有 |
| 封印の剣/烈火の剣 | ベルン王家の秘宝 | 神器・王権型 |
| 聖魔の光石 | グラドの聖石 | 封印の器型 |
| 蒼炎の軌跡/暁の女神 | エルランのメダリオン | 封印の器型 |
| 覚醒 | イーリス王家の盾 | 神器・儀式装置型 |
| if | 夜刀神の最終形態 | 武器型 |
| 風花雪月 | 炎の紋章 | 人体・能力型 |
| エンゲージ | 炎の紋章士リュール | 人物型 |
こうして見ると、意外にも多数派なのは
「特殊な力を持つ重要アイテム」
です。
ただしシリーズが進むにつれ、「Emblem=紋章」という言葉の意味そのものを利用して、さまざまな形へ変化していきます。
1. 『暗黒竜と光の剣』『紋章の謎』
王権の証から「地竜を封じる盾」へ
初代『暗黒竜と光の剣』に登場するファイアーエムブレムは、アカネイア王家に伝わる紋章の盾です。
ニーナ王女からマルスへ託されるものであり、当初は
アカネイアを救う英雄として認められた証
という意味合いが強いアイテムでした。
ゲーム上でも、マルスが宝箱を開けられるようになるなど、特別な権限を与えるアイテムとして扱われています。
しかし『紋章の謎』第2部になると、その本当の正体が明らかになります。
本来の姿は、
5つのオーブをはめ込んだ「封印の盾」
でした。
この盾には地竜族を封印する力があります。
つまりマルスの物語では、
ファイアーエムブレム=英雄の証であり、世界を脅かす竜を封じる神器
という二つの意味を持っています。
なお、メディウスを直接倒すための武器はファイアーエムブレムではなく、ファルシオンです。
この
「ファイアーエムブレムはラスボスを倒す武器ではなく、それとは別の重要な神器」
という構造は、後のシリーズでも何度か使われます。
2. 『外伝』『Echoes もうひとりの英雄王』
そもそもファイアーエムブレムが登場しない
シリーズ2作目『外伝』は、いきなり例外です。
この作品には、
明確にファイアーエムブレムと呼ばれるものが登場しません。
『外伝』はマルスたちが戦ったアカネイア大陸とは別のバレンシア大陸を舞台にした物語です。
そのため、同時代のアカネイアにはファイアーエムブレムが存在しているものの、アルムとセリカの物語には関わってきません。
リメイクの『Echoes もうひとりの英雄王』でも基本的には同じです。
物語上の重要な神器という意味ではアルムの使うファルシオンがありますが、それがファイアーエムブレムというわけではありません。
シリーズ名になっているにもかかわらず、早くも2作目で登場しない。
この時点で、
ファイアーエムブレムは全作品に必ず登場する共通アイテムではない
ことが分かります。
3. 『聖戦の系譜』
神器ではなく「家紋」になる
『聖戦の系譜』ではさらに変わった使われ方をします。
この作品における炎の紋章は、
ヴェルトマー家の家紋
です。
ヴェルトマー家は聖戦士ファラの血を引く名門で、アルヴィスが当主を務めています。
つまりこの作品では、ファイアーエムブレムを手に入れたり、装備したりするわけではありません。
文字通り、
「Emblem=紋章」
なのです。
作中のエピローグでは、ヴェルトマー家の紋章が「炎の紋章」であることが語られ、その紋章が再び正義の象徴と呼ばれることを願う内容があります。
ここで注意したいのが、
アルヴィスやユリウスに流れる特殊な血そのものがファイアーエムブレムなのではない
ということです。
ヴェルトマー家には聖戦士ファラの血が流れています。
さらにアルヴィスには別系統としてロプトの血も流れており、それがユリウスの運命に大きく関わります。
しかし、それらの血統と「炎の紋章」という家紋は別の概念です。
したがって『聖戦の系譜』は、
家紋・一族象徴型ファイアーエムブレム
と分類できます。
4. 『トラキア776』
同じユグドラルだが、独自のファイアーエムブレムはない
『トラキア776』は『聖戦の系譜』と同じユグドラル大陸を舞台にした作品です。
そのため世界設定としてはヴェルトマー家の「炎の紋章」が存在します。
ただし、リーフを中心とする『トラキア776』の物語で、ファイアーエムブレムが重要アイテムとして扱われるわけではありません。
そのため分類するなら、
独自のファイアーエムブレムは登場しないが、『聖戦』の家紋型設定を共有している作品
と考えるのが自然でしょう。
5. 『封印の剣』『烈火の剣』
王位継承と「封印の剣」を解放する鍵
エレブ大陸では、再びファイアーエムブレムが「物」になります。
ベルン王家に伝わる秘宝であり、王位継承の儀式に必要な存在です。
『烈火の剣』では、ゼフィールの王位継承に必要なファイアーエムブレムを巡って事件が起こります。
そして後の『封印の剣』では、ロイがこのファイアーエムブレムを使い、
封印されていた「封印の剣」を解放します。
さらにベルン城の特定の扉を開く鍵としても使用されます。
つまりエレブ版のファイアーエムブレムは、
王家の正統性を示す宝物であり、重要な場所や神器を開放する鍵
という役割です。
マルスの紋章の盾と同様、
王権の象徴+物語を進めるための鍵
という性質を持っています。
6. 『聖魔の光石』
魔王の魂を閉じ込めた「牢獄」
『聖魔の光石』では、ファイアーエムブレムはかなり危険な存在になります。
マギ・ヴァル大陸には、かつて魔王フォデスを封じた「聖石」が存在します。
その中でもグラド帝国の聖石には、
魔王フォデスの魂そのもの
が封印されていました。
封じられた魔王の魂が燃えるような憎悪を放っていたことから、この石が「ファイアーエムブレム」と呼ばれるようになったとされています。
つまり、
ファイアーエムブレム=ラスボスの魂を閉じ込めた封印容器
です。
ところがリオンは、この石の力を利用しようとします。
結果として聖石は魔石と分離し、魔王復活へとつながっていきます。
『紋章の謎』では世界を守るための封印装置だったものが、『聖魔』では
「封印された危険な力を人間が利用しようとしたことで悲劇が起きる」
という物語になっています。
7. 『蒼炎の軌跡』『暁の女神』
女神を封印したメダリオン
テリウス大陸でも、ファイアーエムブレムは封印の器です。
その正体は、
エルランのメダリオン。
ミストが母親から受け継いだ青銅のメダリオンです。
中には「負の女神」ユンヌが封じられています。
戦争などによって世界の混沌が増えるとメダリオンも影響を受け、その力に触れた者を暴走させる危険があります。
アイクの父グレイルも、過去にこのメダリオンへ触れたことで暴走しています。
『聖魔の光石』と非常によく似ており、
- リオンの魔石 → 魔王を封印
- ミストのメダリオン → 女神を封印
という対応になっています。
この2作品は、
「危険な存在を内部に封じ込めた容器型ファイアーエムブレム」
としてまとめられます。
8. 『覚醒』
初代のファイアーエムブレムが「儀式装置」になる
『覚醒』の舞台は、マルスの時代から約2000年後の世界です。
そのためファイアーエムブレムも、初代から続く盾です。
イーリス王家に伝えられており、
5つの宝玉を集めて盾を完成させる
という『紋章の謎』の設定も引き継がれています。
ただし今回は、その用途が変化しています。
完成したファイアーエムブレムを使って「覚醒の儀」を行うことで、クロムのファルシオンにナーガの力を宿します。
つまり、
ファイアーエムブレム=神竜ナーガの力を受けるための儀式装置
です。
ちなみに、ルキナの眼やクロムの腕にある印はファイアーエムブレムではありません。
あちらはイーリス聖王家に現れる聖痕です。
そのため、
- クロム・ルキナの聖痕=血統の証
- ファイアーエムブレム=盾
という別の存在です。
『風花雪月』の「人体に宿る炎の紋章」と混同しやすいポイントでしょう。
9. 『if』
ついにファイアーエムブレムそのものが武器になる
『if』ではカムイ専用武器の夜刀神が重要な役割を果たします。
夜刀神は他の神器と共鳴することで、物語の進行に合わせて姿を変えていきます。
そして『インビジブルキングダム』では、
- 雷神刀
- 風神弓
- ジークフリート
- ブリュンヒルデ
という4つの神器すべてと共鳴し、最終形態へ到達します。
これが**夜刀神・終夜(Omega Yato)**です。
そして、この完成した夜刀神が「Fire Emblem」とされています。
従来作では、
ファイアーエムブレム+主人公の武器
という組み合わせが多くありました。
マルスなら、
封印の盾 + ファルシオン
ロイなら、
炎の紋章 + 封印の剣
クロムなら、
ファイアーエムブレム + ファルシオン
です。
ところが『if』では、
主人公の武器そのものがファイアーエムブレムになる。
シリーズの中でもかなり直接的な「武器型」です。
10. 『風花雪月』
「物」ではなく、人間の身体に宿る
『風花雪月』では、それまでの常識が大きく変わります。
フォドラでは、一部の人間が「紋章」と呼ばれる特殊な力を受け継いでいます。
ブレーダッドの紋章、ゴーティエの紋章、リーガンの紋章など、多数の紋章があります。
その中でも特別なのが、
炎の紋章。
これこそが、この作品におけるシリーズタイトルに対応する存在です。
炎の紋章を宿す代表的な人物は、
- ソティス
- ネメシス
- ベレト/ベレス
- エーデルガルト
などです。
つまり、
すべての紋章がファイアーエムブレムなのではなく、「炎の紋章」という特定の紋章が該当する
という構造です。
これまでの作品ではファイアーエムブレムを
「持つ」
「探す」
「完成させる」
という展開が中心でした。
しかし『風花雪月』では、
ファイアーエムブレムを「身体に宿す」。
シリーズの中でも非常に特殊な、
人体・能力型ファイアーエムブレム
になっています。
また、炎の紋章は天帝の剣とも深く結びついています。
つまり神器そのものではないものの、
神器を扱う資格や超人的な能力につながる力
という意味では、過去作のファイアーエムブレムとの共通点も残されています。
11. 『エンゲージ』
最後は主人公自身がファイアーエムブレムになる
そして『エンゲージ』では、シリーズ史上でもかなり大胆な使い方がされます。
本作には、
- マルス
- セリカ
- シグルド
- リーフ
- ロイ
- リン
- エイリーク
- アイク
- ミカヤ
- ルキナ
- カムイ
- ベレト
という過去作の英雄たちが「紋章士」として登場します。
彼らは指輪に宿った異界の英雄であり、指輪を装備した人物と「シンクロ」「エンゲージ」することで力を貸します。任天堂公式も、紋章士を過去の『ファイアーエムブレム』シリーズから登場した異界の英雄として説明しています。
では、
紋章士の指輪がファイアーエムブレムなのか?
というと、そうではありません。
物語終盤でリュール自身が、
13番目の紋章士「炎の紋章士」
になります。
つまり『エンゲージ』におけるファイアーエムブレムは、
主人公リュール自身。
初代では主人公が「ファイアーエムブレムを託される」存在でした。
それが長いシリーズを経て、
主人公自身がファイアーエムブレムになる
ところまで来たわけです。
シリーズ集大成的な『エンゲージ』らしい扱いと言えるでしょう。
ファイアーエムブレムは「神器型」が一番多い
こうして並べてみると、シリーズごとにまったく違うようで、ある程度のパターンがあります。
大きく分類すると、
① 神器・鍵型
- 暗黒竜/紋章
- 封印/烈火
- 覚醒
- if
主人公が手に入れたり、完成させたりする重要アイテムです。
王権の証だったり、封印を解く鍵だったり、神の力を受けるための装置だったりします。
シリーズの中ではこのタイプが比較的多く、
「世界を救うために必要な特別な神器」
がファイアーエムブレムの基本形と言えそうです。
② 封印の器型
- 聖魔の光石
- 蒼炎の軌跡/暁の女神
こちらはさらに分かりやすく、
危険な存在を内部に閉じ込めています。
聖魔では魔王フォデス。
蒼炎・暁では女神ユンヌ。
興味深いことに、初代の封印の盾まで含めれば、
「危険な超越者を封じる」
という役割はシリーズ初期から何度も繰り返されていることになります。
③ 家紋・象徴型
- 聖戦の系譜
- トラキア776と同一世界
ここでは神器ですらありません。
ヴェルトマー家を表す「炎の紋章」という、
文字通りのエンブレム
です。
④ 人体・能力型
- 風花雪月
炎の紋章が人間の身体に宿っています。
それまで外部に存在していたファイアーエムブレムが、
人間そのものの能力へ取り込まれた
と見ることもできます。
⑤ 人物そのもの型
- エンゲージ
そして最終的には、
人間そのものが炎の紋章士になる。
ここまで来ると、もはや物体ですらありません。
シリーズが進むほど「ファイアーエムブレム」の意味が広がっている
年代順に見ていくと、面白い変化があります。
初代は、
盾
でした。
それが『聖戦の系譜』では、
家紋
になります。
その後、
王家の秘宝
魔王を封印した石
女神を封印したメダリオン
儀式に使う盾
完成された武器
とさまざまな形になっていきます。
さらに『風花雪月』では、
人間の身体に宿る力
となり、
『エンゲージ』ではついに、
主人公自身
になります。
並べると、
盾
↓
家紋
↓
王家の秘宝
↓
封印の石
↓
封印のメダリオン
↓
儀式装置
↓
武器
↓
人体に宿る能力
↓
人物そのもの
と、「ファイアーエムブレム」という言葉の解釈がどんどん広がっていることが分かります。
では、結局「ファイアーエムブレム」とは何なのか?
全作品を通して一つの答えを出すのは難しいでしょう。
同じ世界ですら、時代によって役割が変化しています。
ただ、共通点を探すことはできます。
多くのファイアーエムブレムは、
その世界の歴史・王権・神・竜といった根幹に接続された「特別な証」
として登場します。
単なる強い武器ではありません。
誰が王になるのか。
誰が神器を使えるのか。
何が封印されているのか。
人間と神や竜がどのような関係にあるのか。
そうした、
「この世界がどう成り立っているのか」を象徴するもの
がファイアーエムブレムなのではないでしょうか。
だからこそ、その形が盾でも、石でも、家紋でも、人間でも成立します。
そして『エンゲージ』では、長年「炎の紋章を巡って戦ってきた主人公」が、
最後には自ら「炎の紋章」になる。
そう考えると、『ファイアーエムブレム』という名前を30年以上使い続けながら、毎回違う意味を与えてきたシリーズならではの、かなり面白い到達点なのかもしれません。